Q&A

インドの子会社と競争関係にあるインド企業を買収することを考えています。競争関係にあるインド企業を買収する際に気を付けるべきことを教えて下さい。

インド競争法上、競争関係にある会社を買収する場合は、企業の秘密情報が競争の制限に利用されることにより、反競争的協定が認定されるおそれがあるため、そのような情報の交換には十分に注意すべきです。

(1) 競争法の概要

競争法(The Competition Act, 2002)は、①反競争的協定、②優越的地位の濫用、及び③企業結合について規制しています。このうち、③企業結合については、「企業結合規制」の項で、資産または売上高が一定の基準を満たす会社を買収する際インド競争委員会(Competition Commission of India)への事前届出が必要となる場合があることを述べました。本項においては①反競争的規定について概観した上で、インド企業買収の際留意すべきことを解説します。

(2) 反競争的協定の禁止

競争法は、反競争的協定(Anti-competitive agreements)を無効とし、このような協定を行った当事者にインド競争委員会が一定の命令を課すことができると定めています。この反競争的協定とは、インド国内における競争に著しい悪影響を及ぼすかまたはその恐れがある、物品の生産・供給・流通・保管・取得・管理またはサービスの提供に関する契約を指します。また、この「協定」は、口頭でのみ行われた合意や、法的に執行が可能でない合意も含まれる、非常に広範な概念です。具体的な態様としては、以下に述べる水平的協定や垂直的協定が問題となります。

図:反競争的協定

(a) 水平的協定

水平的協定とは、同種の事業内容を営む競合業者間での協定をいいます。競争法においては、競争関係にある事業者間で以下の内容の協定を結ぶことは、インド国内の競争に相当な悪影響を及ぼすと推定され、当事者はそのような悪影響を生じていないことを自ら立証しなければ競争法上の責任を免れることができません。

① 直接または間接的に、購買価格または販売価格を決定する協定

② 生産、供給、市場、技術開発、投資またはサービスの提供を制限または統制する協定

③ 市場の地域、物品・サービスの種類、顧客の数を分割する等の方法により、市場・生産元・サービス提供元を分割する協定

④ 直接的または間接的に、不正入札または入札談合をもたらす協定

(b) 垂直的協定

垂直的協定とは、異なる取引段階に属する事業者によって締結される協定をいい、例えば、製品の製造会社とその販売会社間の協定が考えられます。競争法においては、以下をはじめとする垂直的協定は、インド国内の競争に相当な悪影響を及ぼしまたはそのおそれがある場合に、禁止されています。

垂直的協定においては、水平的協定と異なり、協定がインド国内の競争に相当な悪影響を及ぼすことに関する推定規定は置かれていません。そのため、インド競争委員会が当該悪影響を立証することとなります。

① 抱き合わせ

例:特定の物品の購入の条件としてその他の物品を併せて購入することを要求する契約

② 排他的供給契約

例:購入者が売主以外の者から物品を取得する行為を制限する契約

③ 排他的流通契約

例:物品の生産または供給を制限する契約

④ 取引拒絶

例:物品の販売先または購入元を制限する契約

⑤ 再販売価格維持

例:再販売価格は売主によって定められた価格でなければならないとの条件を付して物品を販売する契約

(3) 効果

委員会は、反競争的協定を行っている疑いのある行為に対し調査を行うことができます。具体的には、委員会には、関係者を召喚して出頭させ宣誓の上で尋問する権限や、書類の開示及び作成を要求する権限等が認められています。

また委員会が調査の結果反競争的協定を認定した場合、当事者に対し、制裁金の支払(違反行為の継続期間における利益の3倍の額または当該期間における売上高の10%に相当する額のうち、いずれか高い方)や、協定の内容の変更、その他適切と思われる事項等を命令することができます。

(4) 留意点

競争当事者間の買収を行う際、経営統合計画の策定や、デューデリジェンスのために、当事者で企業の秘密情報(例えば、商品の価格情報、顧客情報、契約文書、新商品に関するR&D資料等)を交換することがあります。しかし、競争当事者間においてこれらの情報を交換した場合、そのような情報が(特に買収完了前の段階や買収が行われない場合)競争を制限する行為のために用いられる可能性があります。

そこで、競業会社の買収を行う場合は、例えば以下の点を周知徹底することが考えられるでしょう。

(a) 買収のクロージング前に、実際の経営統合に向けた行為は行わない。

(b) 経営統合の検討は、販売部門と独立した、一部の担当者のみで行う。

(c) 企業の秘密情報は、買収の計画策定に当たり必要最低限の範囲で開示し、買収の計画策定のためのみに用いる。

(d) 買収に関する書面は、厳重に秘密として管理し、販売部門等の無関係な部署に回覧しない。

(e) 買収が中止された場合、開示された企業の秘密情報は全て破棄または返却する。

 

2017年12月28日)
弁護士  日比野明希子

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