Q&A

当社がインドに保有している子会社と、インド現地企業との間で、経営統合のための合併を検討しています。インドにおける企業合併手続きの概要について教えて下さい。

インドの会社法上、会社法審判所が関与する通常の合併手続きに加え、会社法審判所が関与しない簡易合併手続きの2つが規定されています。簡易合併手続きは通常の合併手続きに比して手続が迅速に進むことが期待される一方、簡易合併手続きを選択できる企業は限定されていることから、今後の簡易合併手続きの規制動向に注目することが必要です。

(1) 合併手続の概要

インドの旧会社法である1956年会社法(Companies Act, 1956)下においては、合併や会社分割などの組織再編は、高等裁判所が認可しなければ行うことができませんでした。しかし、この旧会社法下の合併手続きには、高等裁判所による審査及び認可、公告、利害関係人による異議申し立て等様々なプロセスを経ることが必要であり、時間及びコストがかかっていました。
そのため、旧会社法下では、企業買収において合併という手段はあまり利用されていませんでした。これに対し、インドの新会社法である2013年会社法(Companies Act, 2013)下においては、合併をはじめとする組織再編に関する認可権限は、会社法専門の審判所である会社法審判所(National Company Law Tribunal)が有することとされました。また、新会社法下においては、会社法審判所の認可が必要とされる通常の合併に加え、会社法審判所の認可が不要である簡易合併が新設されました。

以下、新会社法の下における合併手続きについて通常の合併と簡易合併に分けて概観します。

(2) 通常の合併手続

新会社法下における通常の合併手続きの概要は以下のとおりです

① 合併当事会社と株主又は債権者との間で、合併計画が作成される

② 合併当事会社、株主又は債権者の申立てに基づき、会社法審判所が、株主総会又は債権者集会の招集等の決定を行う。申立てを行った者は、会社法審判所に対し、宣誓供述書を提出し、会社の財務状況などを開示する。

③ 株主総会又は債権者集会において、75%以上の株式を保有する株主又は75%以上の債権額を保有する債権者の賛成により、合併計画を承認する。

④ 会社法審判所が合併計画を認可する。ただし会社法審判所は、合併計画を認可する際、合併計画の実行のために必要な修正を行うことができる

⑤ 合併当事会社が合併の登記手続きを行う。

この通常の合併手続きには、会社法審判所の認可が必要となります。そのため、合併完了までには約180日から200日程度とある程度長い時間がかかり、また会社法審判所の認可を得るためのコストもかかります。
一方で、通常の合併手続きにおいては、合併当事会社における合併計画承認の要件は、簡易合併手続きに比してやや緩やかなものとなっています。具体的には、株主総会又は債権者集会のいずれかの承認決議で足りるものとされ、その決議も、75%以上の株式を保有する株主又は75%以上の債権額を保有する債権者の賛成があれば足ります。

(3) 簡易合併手続

一方新会社法の下では、以下の会社について、会社法審判所の認可を必要としない簡易合併を行うことが可能です。

(a) 小企業(small companies)同士の合併

なおこの小企業とは、公開会社ではない会社であって、払込済株式資本が500万ルピー以下または前年度の損益計算書上の売上高が2,000万ルピー以下の会社を指します。また、小企業は親会社及び子会社となることができないため日本の会社が子会社として小企業をインドに設立することはできません。

(b) 完全親子会社間の合併

(c) その他別途定める会社の合併

本記事執筆時点において、簡易合併が可能な企業に関するこの別途の定めは設けられていません。

新会社法の下における簡易合併手続きの概要は以下のとおりです。

① 合併当事会社と株主又は債権者との間で、合併計画が作成される。

② 合併当事者会社が、会社登記官(Registrar of Companies)及び清算人(Official Liquidator)に対し、合併計画への異議に関する通知を行う。会社登記官及び清算人は、合併計画に異議がある場合は、30日以内に提出する。

③ 合併当事会社の株主総会において、合併計画につき、90%以上の株式を保有する株主による承認を得る。

④ 合併当事会社の債権者集会において、合併計画につき、90%以上の債権額を保有する債権者による承認を得る

⑤ 合併当事会社が、会社登記官に、支払可能宣言(declaration of solvency)を提出する。

⑥ 株主総会及び債権者集会の承認を得た合併計画が、所管の中央政府、会社登記官及び清算人に提出される。

⑦ 中央政府が合併の登記を行い、合併当事会社への確認書を送付する。中央政府が相当と認める場合、簡易合併は通常の合併手続きへ移行する。

この簡易合併手続きにおいては、会社法審判所による合併計画の認可は不要となります。そのため、簡易合併は、通常の合併手続きと比して半分程度の短い期間で完了し、コストも通常の合併手続きと比して低くなります。
一方で、会社法審判所の認可なくして簡易合併を行うための、合併当事者内部での合併計画の承認要件は非常に厳しいものとなっています。具体的には、90%以上の株式を保有する株主及び90%以上の債権額を保有する債権者の双方が、合併計画に賛成する必要があります。

(4) 留意点

旧会社法下では、合併手続きは、手続き上の負担から経営統合の手段として敬遠されていました。しかし、2016年6月1日に会社法審判所が設置され、2016年12月15日から新会社法の下簡易合併手続きが施行されたことにより、今後インドにおいて合併手続きの利用が進み、会社再編が加速することが期待されます。

その一方で、簡易合併手続きを利用できるのは、小企業間や完全親子会社間合併に限られており、利用可能な企業が少ないとの問題があります。特に、日本企業がインドにおいて小企業を保有することはできないため、現時点で日本企業の保有するインド子会社が簡易合併手続きを選択できるのは、完全親子会社間の会社再編を行う場合に限られます。

新会社法の下における合併手続きの利用状況や、簡易合併の規制に関する動向には、今後とも引き続き注目する必要があります。

 

2017年12月28日)
弁護士  日比野明希子

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