インド法解説 / インドと日本の会社法における役職・機関の相違点

Q&A

インドの会社には、日本にはない役職や機関があると聞きました。どのような役職・機関がありますか。また、役職や機関について、日本法との違いで、留意すべき点について教えてください。

日本にはない役職としては、マネージャーや会社秘書役等が挙げられます。また、日本と同じ名称の役職であっても、就任の要件等で異なる点があることに留意が必要です。

(1) 日本の法制度にはない役職・機関

日本の法制度にはない役職・機関として、主に以下のものが挙げられます。

(a) マネージング・ディレクター(managing director)、マネージャー(manager)

① 概要

マネージング・ディレクターとは、会社経営の重要な権限を委ねられた取締役のことをいいます。

マネージャーとは、取締役会の監督、管理、及び指示の下で、会社の事業の全部又は重要部分の経営に従事する者をいいます。

マネージング・ディレクターとマネージャーの両方を同時に選任することはできない点には注意が必要です。

② 資格

マネージング・ディレクターは、会社の取締役から選任されます。一方で、マネージャーについては、会社の取締役に限らず、会社の取締役でない者も、マネージャーになることができます。

③ 留意点

公開会社がマネージング・ディレクター又はマネージャーを置く場合には、取締役会決議での選任及び株主総会による承認等の手続を履践する必要があります。また、公開会社の場合、選任されるマネージング・ディレクター又はマネージャーが選任日から遡って12か月以上インドに居住している等の要件を満たさない場合には中央政府の承認も得る必要がある点に留意が必要です。

なお、非公開会社の場合は、マネージング・ディレクター又はマネージャーを選任するときでも、公開会社において要求される上記の手続を履践する必要はありません。

(b) 会社秘書役(Company Secretary)

① 概要

会社秘書役は、日本法では存在しない機関ですが、英米法系の国では一般的な機関です。会社秘書役の主な任務・権限は、法令遵守、文書管理、株主管理等です。具体的には、会社に適用される法律の遵守状況の取締役会への報告、財務諸表(financial statement)の承認や年次報告書(annual return)への署名、公的機関に提出する書面の証明等を行います。

上場会社又は(公開会社、非公開会社を問わず)資本金が5000万ルピー以上の会社は、会社秘書役を置く必要があります。

② 資格

会社秘書役となるためには、会社秘書役協会(the Institute of Company Secretaries of India)に登録していることが必要です。会社秘書役協会に登録するためには、資格試験に合格し研修を受ける等一定の要件を満たすことが必要です。

③ 留意点

会社秘書役は、日本の法制度では存在しない役職ですが、会社の法令遵守の確保を目的とする重要な役職であり、会社の運営にも大きな影響力を持ちます。

一方で、会社秘書役の資格取得の要件が厳しいことから、会社秘書役の確保が困難な場合もあります。

(c) CSR委員会

① 概要

CSR委員会(Corporate Social Responsibility Committee)とは、企業の社会的責任方針(Corporate Social Responsibility Policy)を策定することを行う委員会です。

CSR委員会を設置する義務があるのは、公開会社、非公開会社を問わず、前会計年度において、純資産50億ルピー以上、売上高100億ルピー以上又は純利益5000万ルピー以上であった会社です。

② 留意点

上述のように、公開会社、非公開会社を問わず、会社の規模に応じてCSR委員会の設置義務が生じます。CSR活動を行わなかったことについての罰則規定はありませんが、行わなかった理由については、取締役会報告書において説明する義務があり、説明義務の違反には罰則規定があることに留意が必要です。

(2) 日本の法制度との違いに留意すべき点

インド会社法と日本会社法との違いについては、特に以下の点に留意が必要です。

(a) 監査役(auditor)

日本の会社法においては監査役を置かない機関設計も可能ですが、インド会社法においては、必ず監査役の設置が必要です。

まず、資格制限の点に留意が必要です。日本の会社法においては、監査役の就任について、何らかの資格が要求されることはありませんが、インド会社法において監査役に就任することができるのは、勅許会計士(chartered accountant)又はパートナーの過半数が勅許会計士である会計事務所に限られます。

資格制限の点に示されるように、権限も日本の監査役と異なります。インド会社法における監査役は、会社の会計監査及び監査意見の表明等の業務を行うものの、日本の監査役とは異なり、業務監査の権限を有していません。業務範囲の点からは、日本の会社法上の会計監査人に近い役職といえます。

(b) 取締役(director)

① 居住要件

全ての会社において、取締役のうち一人は、選任される前暦年に182日以上インドに居た者である必要があります(例えば2017年8月1日に選任する場合は、2016年1月1日から2016年12月31日の間に182日以上インドに居た必要があります)。インドで会社を設立する場合には、現地の従業員を取締役にする、現地専門家を取締役にする等の対応が考えられます。

② 独立取締役の選任

上場会社と一定の要件を満たす公開会社は、独立取締役を選任する義務があります。独立取締役の選任要件が厳しいことから、独立取締役の候補を探すことが難しいことが多いです。非公開会社の場合には、このような義務はありません。

③ 女性取締役の選任

上場会社と一定の要件を満たす公開会社は、取締役の一人を女性としなければなりません。

 

 

以上は、役職・機関に関するインド会社法と日本会社法との違いを全て網羅するものではありません。インドに会社を設立することを検討する際は、現地の法律事務所だけではなく、日本の法制度との違いを踏まえたアドバイスをすることのできる日本の弁護士にも相談をされることをお勧めします。

 

2017年7月24日)
弁護士 本田昂平

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