インド法解説 / 公開会社と非公開会社

Q&A

インドに現地法人を設立することを考えています。公開会社と非公開会社があると聞きましたが、どちらを設立したらよいですか。

公開会社に求められるガバナンス上の規制や取引規制は、非公開会社よりも厳格であることから、非公開会社の設立を選択することが一般的です。

(1) 非公開会社とは

インド会社法のもとでは、日本の株式会社に相当する、有限責任会社(company limited by shares)を設立することが可能です。日本企業が有限責任会社を設立する際の選択肢としては、公開会社(public company)と非公開会社(private company)があります。非公開会社とは、①株式の譲渡が制限されること、②株主数が制限されること(200人以下)、③証券の公募が禁止されることの3点がその附属定款(articles)に定められている会社のことをいいます。公開会社とは、非公開会社ではない会社のことをいいます。

(2) 公開会社と非公開会社の主要な相違点

a. ガバナンス上の規制に関する相違点

(a) 最低株主数に関する制限

インド会社法では、公開会社は7名以上の株主が必要ですが、非公開会社であれば株主は原則として2名以上で足ります(インドでは、法人が株主となる場合には、一人株主による、いわゆる一人会社は認められません)。なお、最低株主数を満たすために、実質的な親会社のほかに、既存の子会社等を名目的な株主とすることが多くあります。

(b) 株主総会の手続規制の緩和

株主総会の手続に関し、インド会社法には、招集通知、招集通知の添付書類、定足数、議長、代理人、議決権の制限、挙手による決議、投票などの規定が設けられていますが、公開会社にとって、これらの規定は強行規定として、必ず遵守しなければならない手続規制となります。

一方で、非公開会社は、上記の事項につき附属定款に別段の定めをすれば、会社法に定められた規制内容に服する必要はなく、より柔軟な手続による株主総会の運営が可能です。

例えば、公開会社では、株主総会の招集通知は原則として開催の正味21日前に送付される必要がありますが、非公開会社は附属定款で別段の定めを設ければ、招集通知の期間をあらかじめ短縮し、迅速に株主総会を行うことが容易になります。

また、インド会社法のもとでの株主総会の決議方法は、出席株主の頭数による決議(一人一議決権)が原則であり、株式数に基づく決議(一株一議決権)を行うためには、公開会社は株主総会ごとに別途の手続が必要です。一方で、非公開会社については、附属定款で別途の定めを置けば、株主総会毎に特別の手続を経ることなく、株式数に基づく決議も可能となります。

なお、株主総会の定足数については、インド会社法上、公開会社は最低でも5名以上(株主数によって増加)、非公開会社は2名以上となっています。この点でも少ない定足数で迅速に株主総会を運営するには、非公開会社の方が向いていると言えるでしょう。

(c) 独立取締役等の要否

公開会社では、資本金・売上高等が一定額以上の場合には、独立取締役(independent director)、女性取締役(woman director)といった適格性に制限のある取締役を選任する義務が生じる一方で、非公開会社にはこの義務はありません。

また、純資産、売上高、又は純利益が一定額以上の公開会社には、各種委員会の設置が必要になりますが、非公開会社については設置が不要とされる委員会があります。純資産、売上高、又は純利益が一定額以上の場合に、公開会社か非公開会社かを問わず設置する義務が生じる委員会としてCSR(企業社会的責任)委員会(Corporate Social Responsibility Committee)を挙げることができますが、公開会社の場合はCSR委員会に独立取締役を最低1名選任する義務がある一方で、非公開会社の場合はその義務が無いという違いがあります。

これらの点で、公開会社は非公開会社よりも、適格のある取締役や必要な委員会を選任・設置する手間やコストがかかる可能性があります。

(d) 主要経営層役職員の要否・規制

インド会社法には、主要経営層役職員(key managerial officer。常勤のマネージング・ディレクター(managing director)、CEO(Chief Executive Officer)、マネージャー(manager)、会社秘書役(company secretary)等)という概念があります。(3)で述べた規制以外にも、一定の公開会社は主要経営層役職員を設置する義務がありますが、非公開会社ではそのような義務はありません。

非公開会社が主要経営層役職員を選任することも出来ますが、この場合でも、公開会社の主要経営層役職員に適用される居住要件や報酬についての様々な規制の適用がありません。そのため、非公開会社の主要経営層役職員については、より柔軟な選任・報酬の支払いが可能になります。

b. 取引規制に関する相違点(関連当事者間での取引規制の緩和)

公開会社が、親会社、子会社、関連会社、親会社を共通にする別の子会社と取引する場合には、関連当事者(related party)との取引として取締役会や株主総会の決議が必要となります。しかし、非公開会社の場合、親会社、子会社、関連会社、親会社を共通にする別の子会社は、関連当事者にはあたらないとされます。

したがって、非公開会社が、その親会社や子会社と取引する場合には、関連当事者取引規制が及ばず、取締役会や株主総会の承認は不要になります。

これにより、非公開会社を設立した場合は関連会社間での取引がより容易になります。

以上述べたとおり、インド会社法の下では、公開会社にはガバナンス上の規制や取引規制が非公開会社よりも厳格に適用されるため、インドにおいて新たに会社を設立する際には、まずは非公開会社の設立を検討するべきと考えられます。

 

2017518日)
弁護士 本田昂平

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