代表パートナーからのメッセージ
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小島 秀樹 (代表パートナー、25期)
事務所見学に来てくれる人達に私がよく尋ねる言葉は、「現在一番腹が立つことは何ですか」です。3人のうち辛うじて1人は少しは意味が通じることを言う位で、余りきちっとした返答がないことが多い。社会の現状を全て肯定しているのでしょうか?そんなことはないのでしょうが、中身のある応えを頂けないことは淋しいと率直に思います。問題意識を持たない人に重要な社会の動きや情報は認識できないからです。私達法律家がこうして冷暖房のよく効いたジュータン敷きの部屋で、秘書を与えられ、世界中の法律を調査したり、数枚の意見書を英文や和文で提出して百万単位の報酬を頂くことができるのは、一体我々の力故なのでしょうか。私が中学を卒業する直前、担任の教師が、「すぐ就職する人は手を挙げて」と呼びかけた時、1/3以上のクラスの同級生が手を挙げました。その中に私よりいつもはるかに学業優秀な人が男女何人か居ました。そしてその中のひとりの女生徒はきれいに洗った白いブラウスをいつも着ていましたが、そのブラウスは何年も着古してほころびをきちん縫ったような印象でした。時々、彼女が教室を出て、廊下で弟の世話をやいているのを見たこともあります。賢明な諸君はもうお分かりでしょう。私達は高校・大学、そして司法試験と少しは勉強しましたが、そもそもそれはそういう生活をすることを許してくれた親や環境があったからできたに過ぎません。その受験の競争に参加させてもらえなかった同級生がたくさん居たことを決して忘れてはいけないと思います。我々の仕事が事業家のみならず、社会に多少とも影響を与えることがあるとすれば、その社会を形づくっている高等教育を受けたくても受けられなかった多くの人達のことを忘れてはいけないと思います。
もうひとつ考えて欲しいのは、私達はなぜ仕事に対してお金をもらえるのでしょう。判検事の給料も同じです。なぜもらえるのでしょう。我々が弁護士バッヂをつけていたり、判事として判決を書くからでしょうか。私は違うと思います。我々が報酬や給料を正当化できるのは唯一、我々がクライアントに付加価値を与え、判事ならば、国民が必要とする中立で衡平妥当な裁判を行うからです。それなくして我々の報酬も給料も正当化できません。1度の人生です。法律家を選んだのなら、本物の人生を送りたいと思います。夫としても父親としても。皆さんの時代は豊かで、きっと何人かは小学生の頃から学習塾に通い、有名校に入る為に自分のみならず親までが随分努力した人もいるのではないでしょうか。しかし皆さんのした努力の本当の目的は、社会に出て、仕事で社会に付加価値を与えお金を頂き、自分の生活を支え、家族を養えるようになる為です。有名校に入ることは目的ではなく、手段です。有名校を出たことや法律家の資格を持っていることは何らお金を頂くことを正当化しません。社会に付加価値を与えているか否か、それが課題であり、我々の存在理由を与えてくれる試練です。こうも言えます。有名校を出たり資格を持っていても、社会に付加価値を与えられないのなら、何の意味もありません。私の知人で旧制中学や大学の試験で見事にヤマが当たって1年短縮で進級したことを得々と自慢した人がいました。しかしその人から判事として何を成し遂げたかの話はついぞ聞いたことがありません。自分が有名校を優秀な成績で出たことで目的を達したと思い込み、本当の目的を考えなかったのかな、と思います。再言しますが、学校や資格は手段です。一度学校も資格も忘れて、毎日、自分は一体社会の役に立っているのだろうか、と自問しながら生きて欲しいと思います。本物の人生を送る為に。