ヤマト運輸と道路交通法について

小島 秀樹

「すべての人間は生まれながらにして平等である」(世界人権宣言第一条)と言うと、そんなことはない、経済格差然り、公権力に近い人然り、親と幼くして死に別れた人からは、そうでない人との間に平等たり得ることはない、と反論されそうである。しかし現行の憲法の平等条項も、明治維新の時の士族制度の廃止も、その時代に遡ってよく考えれば、例えば女子の普通選挙権は戦後初めて認められたものであり、姦通罪も女性のみに成立した刑事犯であった。士族に至っては時代により制度の違いはあろうが、数百年続いた身分制度であり、明治政府はこれを廃止した。西南戦争は士族の最後の抵抗としての反乱であった。つまり今の時点でなく、平等を目指す制度ができた時に遡って考えれば、大きな意味を当時の人間に与えていた。

昨年6月、日本中の駐車違反への法規制が一斉に強化された。貨物の積降しであっても5分以上の停止は駐車違反とされる。この内容自体は去年6月以前も同じであったが、法規制の適用段階で、ゆるやかな運用がなされていた。以前は、都内では一般に40分から50分の駐車違反が認定できた場合に交通切符を切っていた。それが違法な駐車(例えば運転手が車から離れている場合は即違法となるし、荷物の積降しでは運転手の有無を問わず5分を超えると違法)は、発見し次第、直ちに交通切符を切る適用の仕方になった。宅配業者には何ら特権はなく、全ての民間の宅配便の車はこの規制の対象になった。すぐに対応したのはヤマト運輸である。彼らは小型のリヤカーを特注して作り、スーパーで使うカートの様なリヤカーを手押し車同様に使いこなすようになった。即ち、一旦宅配用中小型トラックで一定の地点まで運び、そのトラックを道路ではなく新たに借りた駐車場に置き、そのトラックから一部の宅配荷物をリヤカーに移し、今度はそのリヤカーで個々の配送先の玄関まで運ぶのである。一人の運転手でこの仕事をこなしており、やっている人に尋ねてみると今までの2倍の大変さ(労働負担)である、とのこと。道路に違法駐車することが社内ルールで禁じられている、とのことであった。このような対応費用はヤマト運輸に全国的には億を超える月間駐車料金を負担させることになるであろう。労働力の負担はじわじわと経費に跳ね返ってくるであろう。こちらの負担の方がはるかに高い経費増をもたらすことになろう。

ところで、日本通運も佐川急便も西濃運輸も私の知る限りではこうした「対応」をとってはいない。少なくとも私の職場の近くで駐車場に宅配トラックを置いてリヤカーに積替えているのは見ない。相変わらず5分をはるかに越える時間、道路に駐車したまま荷物を降ろしている。つまり佐川も日通も、西濃運輸も、月間億を超えるかもしれない駐車料金や労務費増加分を負担せず、ヤマトと宅配便分野で競争しているのである。日通等の対応しない企業の経費負担は、ヤマトと比べ大いに安上がりであり、有利ということができる。それは法律を守らない者が競争上大変有利になるということである。こうした状況は法律の適用場面における平等の問題と捉えることができる。法律が内容的に一律平等であったとしても、適用段階で不平等ならば結果として不平等な法律となる。交通警察の怠慢によって「正直者が馬鹿をみる」社会悪をつくりだしていると思うが、如何であろうか。

(実業界2007年11月号所収)

論稿

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